東京都北区王子の伝承から現代へ
「王子狐の行列」は、江戸時代の民話と浮世絵に描かれた幻想的な光景を、現代に再現した比較的新しい伝承行事です。その歴史は大きく「伝承の時代」と「再現の時代」に分けられます。
王子狐の行列の歴史に関するFAQ
🦊 王子狐の行列の起源はいつですか?
王子狐の行列の起源は江戸時代に広まった「王子の狐火」の伝承です。関東一円の狐が大晦日に王子の装束榎に集まり、装束を整えて王子稲荷神社へ参拝したと語られています。この幻想的な光景は農民の豊凶占いにも結びつきました。
📖 史料にはどのように記録されていますか?
1804年に斎藤月岑『江戸名所図会』で「大晦日の夜、狐火が装束榎に集まる」と記録されています。さらに1856〜1858年には歌川広重『名所江戸百景』に「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」が描かれ、江戸庶民に広く知られるようになりました。
🌳 装束榎は現在も残っていますか?
装束榎は江戸時代に名所となりましたが、明治中期に枯死し、1929年(昭和4年)の道路拡張工事で伐採・撤去されました。現在は現地に石碑や案内があり、行列は「装束榎」にちなむ装束稲荷から王子稲荷神社へ向かいます。
🏙️ なぜ伝承は一度忘れられたのですか?
大正から昭和初期にかけて王子地域が急速に市街地化し、装束榎も失われたため、狐火伝説は人々の記憶から薄れていきました。昭和30〜50年代には古老が「昔は大晦日に不思議な火が見えた」と語る程度の口承伝説として残っていました。
🎭 現代の王子狐の行列はいつ始まったのですか?
現代の王子狐の行列は1993年(平成5年)の大晦日に始まりました。王子銀座商店街の有志が広重の浮世絵を現代に蘇らせようと企画し、参加者約30名で第1回が開催されました。その後口コミで広まり、現在では数百名規模の参加者と数千人の観客を集める人気行事となっています。
🏆 歴史的な意義はどのように変化しましたか?
- 江戸時代:狐火が「本当に見える」と信じられた神秘体験
- 昭和期:都市化で伝承が衰退し、口承のみで残存
- 1993年以降:地域文化の再演として復活し、1999年には「地域づくり団体自治大臣表彰」を受賞
- 現在:東京に残る数少ない大晦日の伝統行事として「参加型無形民俗文化財」と評価されています
📈 今後の開催予定はどうなっていますか?
2025年12月31日に第33回が予定されています。例年12月初旬に公式ページより参加募集が始まり、数日で定員に達するほどの人気イベントです。
参考情報
・東京都北区公式観光情報
・東京都公式観光サイト GoTokyo(王子・王子稲荷の周辺情報)
・文化庁「無形民俗文化財」制度概要
・国立国会図書館デジタルコレクション(歌川広重『名所江戸百景』)
📜 伝承の時代(江戸時代)
起源:狐火の伝説
🌳 王子稲荷神社(北区岸町)は平安時代から「関東稲荷総社」と呼ばれ、関八州の稲荷信仰の中心地でした。 ちなみに当時の王子稲荷神社はは”岸稲荷”という名称でしたが、1322年に王子神社(王子権現社)の命名と共に、地域名が王子村に変更。その流れで王子稲荷神社という名称になりました。 中村天風の出身地の王子村です。
🦊 大晦日になると、関東一円の狐が王子に集まり、装束榎(しょうぞくえのき)の下で人間の姿に化け、装束を整えてから参拝したと伝えられています。
✨ この榎は「狐の化粧部屋」と呼ばれ、江戸時代中期には名所化しました。
民話と信仰
👩🌾 農民たちは狐火の数を数え、翌年の豊凶を占ったとされています。
🌌 「狐火の行列」は神秘的な光景として庶民に広まりました。
浮世絵による普及
📖 1804年:斎藤月岑『江戸名所図会』に「大晦日の狐火」が記録。
🎨 1856-1858年:歌川広重『名所江戸百景』第114番「王子装束ゑの木 大晦日の狐火」が刊行。
🎉 江戸後期には「王子狐火」が正月詣での人気スポットとなりました。
🏙️ 近代~昭和:伝承の衰退
- 明治中期:装束榎が枯死。
- 1929年(昭和4年):道路拡張に際して装束榎が伐採・撤去。
- 昭和初期:急速な市街地化で狐火伝説は忘れられ、古老の口承に残る程度となりました。
🎭 再現の時代(現代)
復活の経緯
📅 1993年(平成5年):王子銀座商店街の有志が「広重の浮世絵を現代に蘇らせよう」と企画、第1回開催。参加者は約30名。
👨👩👧 以降、口コミで参加者が増え、地域の子どもたちも参加するようになりました。
年表で見る復活の歩み
1993 第1回開催(参加者約30名)
1999 第7回で「地域づくり団体自治大臣表彰」受賞
2003 第10回記念で「狐メイク講習会」開始
2020-22 コロナ禍で3年連続中止、オンライン配信
2023 復活、参加者300名規模に
2025 第33回開催予定。参加者募集は数時間で定員に達する人気イベント
💡 歴史的意義の変化
- 江戸時代:狐火が「本当に見える」と信じられた神秘体験
- 1993年以降:失われた伝承を「地域文化の再演」として再構築
- 現在:東京に残る数少ない大晦日の伝統行事として、国内外から注目される「参加型無形民俗文化財」
📚 参考文献・資料
- 『江戸名所図会』(斎藤月岑)
- 歌川広重『名所江戸百景』
- 王子狐の行列の会 公式記録(1993年~)
- 北区立中央図書館所蔵「王子狐火関係資料」
